21世紀/ナノテクノロジー時代の幕開け


21世紀それはナノテクノロジー時代の幕開けでもある。21世紀のインフラ技術として、10億分の1メートルの極微細な世界で原子・分子を操るナノテク研究が本格化する。ナノ加工はもとより、生体分子を制御するナノバイオなども注目されており、生体内に入って細胞の治療や修復を行う超微小分子マシンも夢ではない。  ナノテク分野の材料として注目されている炭素の籠型分子といわれるフラーレン・C60も色々な可能性が指摘されている。その特異な構造の電子構造から金属内包フラーレンが超伝導性を示すなど、多様な性質が報告されている。C60に次いで発見されたカーボンナノチューブは日本発の新材料である。現在、世界的にその研究が取り組まれている。新しい電子線源としてフラットパネルデスプレィへの適応が始まり、すでに試作が進む。また、カーボンナノチューブの水素吸蔵性に着目して、将来の水素エンジン車の有力な水素蓄積材料として研究も進む。LSIは膜厚方向ではすでにナノメートルの領域に入っている。しかし集積度を決めるのは横方向の微細度である。その限界も10ナノメートルといわれ、それ以降の有力な候補に上がっているのが、有機分子やカーボンナノチューブである。カーボンナノチューブを自己組織的に形成する技術と組み合わせて、クロスバースイッチによる電子デバイス研究にも取り組まれている。こうしたナノ構造を形成する技術として、二つの考え方がある。一つはLSI微細加工技術に代表される切り刻むトップダウン加工技術。もう一つは積み木細工のように原子や分子を一つひとつ積み上げるボトムアップ技術である。正確な比喩ではないが、丸太から仏像を彫り出すか、粘土粒子で仏像を製作するかの違いである。このボトムアップ技術は、原子操作技術である走査型トンネル顕微鏡(STM)などを用いて積み木細工のように加工するものや材料間の歪みの差などを利用した自己組織化技術などがある。その他、最近発表された3次元の選択気相成長技術の注目される。3次元CADデータで制御された集束イオンビームによるガスソース雰囲気でスキャンすると、立体的なナノ構造体を成長できる技術である。このナノ形成技術は、1984年に姫路工業大学・松井真二教授らによって開発されたもので、電子ビーム励起反応によるWF6ガス雰囲気中で15nm径のWロッドパターンの作製に成功したことによる(S. Matsui and K. Mori: New Selective Deposition Technology by Electron Beam Induced Surface Reaction, Jpn. J. Appl. Phys., 23, (1984) L706.)。従来、トップダウンでしか実現できなかったものを、ボトムアップで自在に作れることになる。現在、分解能が数十ナノメートルで形成でき、NEC、姫路工業大学・松井真二教授、セイコーインスツルメンツ(SII)は、ナノワイングラスやナノボルト、ナノドリルなどを試作している。この技術でダイヤモンドマイクロマシンも簡単に作製できるであろう。そこで、清原博士は、時代のニーズを考え、電子ビームを用いた選択気相成長法による水素・メタン雰囲気中でナノクリスタルダイヤモンドの合成を研究課題として行っている。ナノクリスタルダイヤモンドはナノオーダーの平坦な膜による極めて低い摩擦係数の膜が得られる。膜の結晶サイズを制御し、より平坦な膜の合成は抵摩擦、抵摩耗によるトライポロジー材料への応用、例えば歯車、や抵散乱による高透過性の光学材料などへの応用に期待できる。このナノ形成技術により細胞レベルのデバイスがつくれるようになり、神経系の生体機能の計測や光通信向け光部品、ナノバイオチップなど、広範な分野に応用できる。[平成13年2月1日記]

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