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124 2020

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事実も小説も奇なり!

学生相談室では年に数回、誰もが気軽に足を運べる相談室開放イベント「学生相談室deティータイム」を開催しており、ときどきその場で“本の交換会”を行います。これは、自分が読んだ本(他人に譲れる本)を持ち寄って、その場にいるみんなに紹介・提供し、興味を持った学生に持ち帰ってもらうもので、毎回5~10名程度の学生が参加してくださいます。次回は2月4日(火)の16:10から学生相談室で開催されますので、本好きの方、オススメの本がある方は、ぜひおいでください!

と、宣伝はそのくらいにして、今日はせっかくなので「本」を切り口に、思い出深い3冊の小説と、それらの作品を通じて縁のあった女性について記します。なぜ女性なのかって?「その人」あってこそ強烈な印象が残っている作品を挙げていくと、たまたま3人とも女性だった、というのが正直なところです。

○谷崎潤一郎『痴人の愛』(新潮文庫、1947年)

あれは確か、1996年4月某日のこと。実家から上京して大学の入学式を終えたばかりの私は、東急東横線日吉駅の直上にある本屋で時間を潰していました。すると、入学前の新歓コンパで会ったばかりの同級生(女性)がやってきて、「私、この作品に出てくるナオミのようになりたいの」と言いながら、おもむろに谷崎の『痴人の愛』を差し出してきたのです。

上京したての田舎者だった私にとっては、夏目漱石の『三四郎』で、三四郎が美禰子に出会った時のようなインパクトでした。「やっべー…都会ってこええ。女こええ」とドキドキしながらその小説を買って帰り、その日のうちに読み終えましたっけ。…あ、言うまでもなく、その後一切、関係は進展しませんでしたけどねorz

今思えばあの頃は転生しなくても異世界だったわー。

○立原正秋『剣ヶ崎・白い罌粟』(新潮文庫、1971年)

ノストラダムスの大予言が世を賑わしていた1999年の10の月。私の知人(「友人」と書くのはちょっとおこがましくて)に、今では声優を生業としている女性がいるのですが、当時駆け出しだったその子に「舞台に出るから」と誘われて、友人たちと見に行きました。

そこで演じられていたのが、立原正秋の「剣ヶ崎」。当時、年に何度か舞台を見に出かけていた私にとっても、この舞台は知名度の高い声優(俳優)さんが出演されていたことや、声や視線や表情など、動き以外で語られる部分がすごく大きかったことから、強く印象に残っています。その後しばらく、「信じられるのは美だけだ!」という主人公のセリフを好んで使ってましたっけ(笑)。

「剣ヶ崎」は、戦時中の国家や民族を描いた硬派・社会派の作品です。ひよっこの役者が演じるには重いテーマですが、思い返せば、当時はまだ「戦争」が近かった(経験者が生きていた)し、さまざまな問題に対して社会が素朴に真摯にがっぷり四つに組んでいた、そんな気がします(年寄りの懐古主義じみてるなぁ…)。

この、時代による空気の重みというか質感の違いを、世代を隔てた今の学生さんに伝えることって難しそうです。あえて私の印象・感覚を作家の作風で例えるなら、当時は田中芳樹的、今は西尾維新的、とでも言ったところでしょうか。

○吉野源三郎『君たちはどう生きるか』(岩波文庫、1982年)

私が教壇に立ち始めて間もない2008年、今では箱根駅伝の常連になっている某大学で、初めて受け持つゼミに所属していた読書家の女子学生から勧められた一冊です。主人公コペル君の成長や、彼を見守る大人たちの姿がとても清々しく温かいもので、読了後、なんだか妙に敬虔な気持ちになりました。

この本を紹介してくれた学生は、人間として立派に生きていて、教員が学生から生き方を“学ぶ”という、新鮮な経験をもたらしてくれました。同時に、私にもっと経験や知識や自信があれば、学生の才能や可能性をもっと伸ばせそうなのに…と、自身の非力を悔しく思ったものでした。

その後、私の教歴も15年近くになりますが、学生から学ぶ、という経験はやっぱり時々あるもので。本校ではかつて、学生が何気なく漏らした友人への言及に心打たれたことがあります。皆さんは、同級生(友人)や同僚を、憧れと尊敬と全幅の信頼を込めて「あいつはすごいやつですよ」なんて言えます?私みたいにちっぽけな大人になってしまうと、他人を認めるのはけっこう怖くて、とても勇気がいるんですよね。

ともあれ、そうした思い出と共にある本書は、謙虚さや余裕を失ったときに読み返せば少しだけ正気に戻れる、そんな回復効果を持っています。

今回もくだらない話を書き綴ってきましたが、本って、たぶん人生をちょっぴり豊かにしてくれます。思い立ったらその日が吉日、周囲の誰かにオススメの本を聞いて、読んでみてはどうでしょう?

(学生相談室長 児玉)

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