学生相談室

Counseling Room

728 2020

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I: 俺、こないだ腹立つことあってん。
G: なになに?
I: 道歩いとったらな、向こうからな、靴履いたおっさんが、ガーッて、こっち睨みながら歩いてくんねん。
G: ああ、怖いね。
I: わあ、怖いなって思ってたら、その靴履いたおっさんが、バーーンって、わざと肩ぶつけてきて、「おい、何ぶつかってきとんねん」て言うてくんねん。
G: おお。
I: 「わあ、最悪や」って思ってたら、その靴履いたおっさんが、「あ、お前、見たことあんぞ、テレビ出てるやろ」言われて。
G: あーーー。
I: 「お前あれやろ、あのーーー、スピードワゴンの福田やろ。」って。誰やねん! 言うて。
G: 何にも合うてないやん。
I: どういう間違い方? 1個も合うてないよ? っていう。めっちゃ腹立つねん、これ。

 

ツッコみたくなったでしょうか? わかります、わかります。

腹が立ったときの対処法を話したいわけではありません。実はこれ、「Cygames THE MANZAI 2016 マスターズ」(フジテレビ系列、2016年12月18日放送)に掛けられていたフットボールアワーの漫才です(文字面で読みやすいように、ところどころ抜粋しています。漫才としてのテンポ感を崩さないため、中略表記を省略しています。悪しからず)。

言葉遊びが秀逸で、初めて文字起こししたくなるほどに衝撃を受けました。ちなみに、「I」はボケの岩尾望さん、「G」はツッコミの後藤輝基さんです(スピードワゴンは井戸田さんと小沢さんのコンビです。福田さんは恐らくチュートリアルかと)。

さて、後藤さんのツッコミは、というと――。

 

全文を表示
G:
 
それ、お前、その「靴履いてる」いうのは、……言わなあかんの?
何か話に関係あんのかな、思て、ずっと聞いてたけど、何にも関係ないやん。「靴履いて歩いてて」とか「靴履いたおっさん」とか。
I: いやでも「靴履いてる」って言うことで、外での出来事やっていうことが、わかるやん。
G: 家の中で知らんおっさんと肩ぶつかれへんやん。邪魔やねん。その「靴履いた」とか。
I: でも、おっさん靴履いとったもん。
G: いや、「靴履いたおっさん」じゃなくて、「おっさん」でええねん。
I: え、ほんならお前、「長靴を履いた猫」のこと「猫」っていうの? 「猫」って書いた本読もうと思うの?
G:
 
何の話やねん。違うねん。「長靴を履いた猫」は、めちゃめちゃ特徴的やん。
ほんなら、言うていこう。その場合は、「長靴を履いた猫」って言うてええねん。
I: ねえ、うん。言うてええ。うん。
G: 「靴を履いたおっさん」は言わんでええ。
I: ……猫に長靴履かしてええのに、おっさんには靴履かしたらあかんの?
G: いやいや、そういうことちゃうねん。
I: おっさんかて履きたいやん。
G: おっさんは靴履いててええねん。「靴履いたおっさん」て言わんでええで、て言うてんねん。
I: ああ、必要がないよっていうことね。

 

笑い所ではありますが、俯瞰して見たとき、改めて言葉の選び方って難しいなあと思います。出来事を忠実に説明しようとすると、見たもの、聞いたことをそのまま話せばよいと思うかもしれません。しかし、余計な一言のおかげで、そちらが気になって本題が頭に入ってこないのです。

たとえば地図の説明をするときも、見えるものすべてを説明していては切りがなく、わかりづらくなります。目印になるものを選んで、その他に見えるものは省いて説明します。とはいえ、説明すべき目印を落とすと、それも伝わりません。

言葉が足りなくて伝わらない、言いすぎて伝わらない、その言葉の程度は話す相手によっても異なります。毎日話すような友達だと、少し言葉が足りなくてもわかってくれることもあるでしょう。それに対して、普段あまり関わらない人に話す場合は、どこまで説明すれば良いのか探っていく必要があります。不特定多数に向けて話すとなると、さらに難しくなるでしょう。

「相手の立場に立つ(Put yourself in the other person's shoes.)」ということは、この漫才のように話し合って、失敗やすれ違いを重ねながらも、お互いの言葉の量を量り、関係性を作っていくことなのではないのかとも思います。

さて、漫才は佳境へ。岩尾さんも、もっと表現力を身につけていきたい、と熱く語ります。畳みかける次の会話の中で、(1)~(8)にあてはまる言葉、わかるでしょうか?

 

G: そりゃ、頑張ったらええねん。
I: 芸人としてももちろん、役者として、そう、「( 1 )」でやっていきたいわけや。
G: 「( 1 )」って、また履きに行ってるやないか、お前、昔の靴履きたなってるやん。
I: いや、違っ、多分野で活躍したいって言うてるだけやん。それを、お前、( 2 )を取りすぎやわ。
G: 「( 2 )を取る」って、またなんか、靴に近なっていってるやん。
I: そんなそんな。全然ちゃうやん。それはすぐに( 3 )見てこられても……。
G: 「( 3 )見る」! だんだん靴寄りになってきてるやん。
I: 違う違う、もう意味を( 4 )から。
G: 履いた履いた!
I: 履いてない!
G: 履いたやん。
I: 履いてないよ。それは( 5 )やわ。
G: お前、別のクツ出してきたな。何やねん、「( 5 )」って。
I:
 
そのクツは履かれへんやん。履きたくても履かれへんくつやん。
「パンはパンでも食べられないパンはなーんだ」のやつやん。
G: 何の話やねん。お前。
I: ちゃう。いろんな分野で頑張りたい、言うてんねん。先輩でも、すごい人いっぱいおるやん。
G: おお。
I: ロンブーの敦さんなんかは、バラエティから政治の番組、バンドとかもやってはるやん。
G: そう、そりゃ、マルチやで。
I: リンゴさんもモモコさんも、ずっと一線で、いろんな番組やってはるやんか。
G: ( 6 )と( 7 )って、……靴やないか、お前! もう先輩のこと、履きたなってるやないか。
I: そんな。いや、先輩を靴としては見てないよ。先輩に対して憧れは抱くけど、履きたさは抱いてないよ。
G: 履きたさあるやろ、お前。
I: 違う、いろんな分野でがんばって、ビッグになりたいって。
G: そりゃ、ビッグになりたい言うのはいいわ。
I: いろんな才能を身につけて、
G: 靴履くなよ。
I: 芸術的な分野とか、
G: 靴履くなよ。
I: ヴァイオリンとかも始めて、
G: ヴァイオリンはええけど、靴履くなよ。
I: ゆくゆくは「情熱大陸」のテーマソングとかやりたいなーと思って。
G:
 
 
ああ、「情熱大陸」……
……「( 8 )」いうことか、お前?
「( 8 )」のことを「( 8 )」と捉えてんのか。(後略)

 

まだ少し漫才は続くのですが、この辺りで止めておきます。これほど靴にまつわる言葉が並ぶと壮観です。しかも、それぞれ別の観点からの「靴」であることも見逃せません。

真面目な話に戻ると、確かに、表現力の幅が広がると、見える世界が変わってくるでしょう。言葉の取捨選択も、失敗と成功を重ねながら経験を積むことで、これから出会う様々な人たちが見ている世界に、一歩近づけるかもしれません。

――どこかでオチをつけないと、と思いながら話していますが、まだちょっと弱いですね。なかなか気の利いた言葉が見つかりません……私もまだまだ地に足をつけて、表現力を磨くことが必要です。

 

―――裸足になった!

(学生相談室スタッフ 人文科学部門(国語) 荻田みどり)


〔解答〕
1: 二足のわらじ 2: 揚げ足 3: 足もと 4: 履き違えて(い)る 5: 屁理屈 6: ロンドンブーツ(1号2号) 7: ハイヒール 8: はかせたろう(葉加瀬太郎)

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