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310 2021

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にげるのは恥ではない、戦略的撤退だ!

ご無沙汰してます。電気情報工学科の廣芝です。
 

ここにブログを書くのは2回目です。実は前回(6月)、いろいろ原稿をかいてみたものの、状況が目まぐるしく変わり、3稿ほどボツにしました。あの頃は新型コロナで学校も本当に大変でした。結局、おススメの本の紹介をさせてもらったのですが、今回は何を書こうかな?などとのんびりしている間に様々なことが起こり、先日も東北で大きな地震があってと、息つく暇もありません。

さて私は、授業を受けていた人たちならわかると思いますが、あまり真面目な堅い話は性に合わない性格です。ブログの記事も、なるべく読んで面白く、また、ちょっとためになる話を書こうと思っていました。しかし、私はこの3月で舞鶴高専を退職し、4月からは大阪の私立大学に異動することになっています。ですので、この記事が、舞鶴高専で学生のみなさんに送る最後のメッセージになります。そんなこんなの状況ですので、この記事を読んでくれている誰かに、少しまじめな話を書きたいな、と思いました。
 

数年前にヒットして、今春スペシャルドラマで帰ってきた新垣結衣主演のドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」がありました。いつ見てもかわいいですね、新垣結衣さんは、本当に。このタイトルは、ハンガリーのことわざ「Szégyen a futás, de hasznos.」を和訳したもので、意味としては「たとえ恥ずかしい逃げ方だったとしても、生き抜くことが大切である」ということだそうです。

私が思うに、逃げ場所を確保するというのは重要です。今回のように地震があった時は津波に備えて高台に逃げる。豪雨のときは地下街から地上に出る。一人暮らしで住居を選ぶときは渋谷や世田谷など、漢字に「サンズイ」のついた地名や「谷」のついた地名に気を付ける。これは昨今、ゲリラ豪雨などで水害が多い地名と言われています。雪のときはノーマルタイヤの車に近づかない。などなど、です。こちらが気を付けていても、向こうからやってくる災害や不運から身を守る。ゲームでドラクエをやるひとならわかると思いますが、基本的に作戦は「いのちをだいじに」です。

とにかく、逃げ場所の確保は大事です。逃げ場所を確保しましょう。高専の中にもです。学生相談室や保健室、部室、研究室でもいいし、気軽に話せる好きな先生の部屋が避難場所でも構わないと思います。まずは、高専内に安全地帯・避難場所を確保しましょう。とにかく、しんどくなったら少しでも安全な場所に逃げ込んでいいと思います。

今年度は、藤井聡太二冠の活躍で将棋の世界が一躍有名になりましたが、私は囲碁というゲームを勧めたいです。ルールは簡単。相手より多くの陣地を確保したものの勝ちです。将棋の世界では、とにかく相手の王将を詰めれば勝ちです。しかし囲碁の世界では、相手の大石を攻めて殺しても、必ずしも勝てない。ましてや、攻めてせめて攻め切ったと思いきや攻めきれず、シノがれて負けるという事もあります。

囲碁用語で、「シノギ」とは「相手の勢力が圧倒的に強い場所で、相手の攻めを巧みにいなして自分の石を生存に導くこと」です。将棋は9×9の81マスでの戦いですが、囲碁は19×19の361か所の置き場所があり、戦いかたも千差万別、「シノギ」や戦略的な「手抜き」、妥協できるところでまとめる「サバキ」というのがあります。囲碁では部分的に損しても、最終的な勝負は陣地の面積で比べると非常に細かいことも多いです。長い対局のなかで、カナメとなる一手一手に気づく力、部分にこだわらず全体を見通す力、これを「大局観」といいます。最後まで勝負は分かりません。

囲碁は良く人生にたとえられます。部分的に損をし、失敗しても、やり直しがきく点も奥が深いゲームです。また、なかなかの長期戦なので、損したと思っていた1手が後半おもわぬ妙手につながることもあります。みなさんは、囲碁でいえば序盤、「布石を打つ」という段階でしょう。中学校までは、同じような進行度合いですが、個性が出始めるのも15手~30手くらい。人間でいえば15から20才くらいでしょうか? このころ、盤面には石も少なく、一手一手失敗したかな? などと悔やむ必要はないと個人的に思っています。

私の話で申し訳ないですが、電気電子系の教員として回路理論や電子デバイス工学を教えていますが、私の出身は理学部です。学部の4年間は、ひたすら数学と物理と化学をやっていました。電気回路を習ったことも、電子デバイスの講義を受けたこともありません。しかし、世は大不況、氷河期世代と言われた私たちに、大学で習った知識を生かせる職業は多くありませんでした。人生の「布石」が生きなかった世代ですね。同期の仲間たちは100社以上受けて、結局、希望のメーカーには入れず、IT情報系の会社に入るという事も多かったです。当時も、IT技術者は不足していて、物理や数学が得意だとSEとしてつぶしが効いたとも言えます。「布石」にこだわらず乱戦模様の中、己の道を信じる力碁になってしまった人も多いのでしょう。そうなってくると、それまでの常識的な一手、いわゆる「定石」は、あまり役に立ちません。私はと言えば、大学院に進んで博士を取れたのも31歳と早い方ではありません。私の「布石」は、細かい手にこだわって数手損している「布石」だったかもしれません。大学院もストレートじゃないので「定石」でもないですしね。ただし長い世間の不安感や不況を「シノい」でいたような気がします。

はっきり言って、理学部で学ぶような量子力学や統計力学といった基礎学問は社会で目立って使う事は多くありません。私が最初に職を得たのは、工学部の機械工学科計測コースというところの助教職でした。理学部の物理ではありませんでした。次に移ったのは化学バイオ工学、その後、電気情報生命と一見すると、首尾一貫しないキャリアです。私個人としては首尾一貫して、ナノデバイスという共通点はあるのですが、世間的には少し変わったキャリアに思えるようです。それでも、学生時代の手数をかけた独特の布石(=理学部での基礎学問)のおかげで、電気電子系で回路や電磁気学、電子デバイス工学も難なく教えられましたし、学校のピンチに「化学」の代打として立つこともできました。王道ではないですが、今のところ中盤で私のヘンな「布石」は役に立っているのかもしれません。みなさんの「布石」はどうですか? 多分、まだまだ発展途上で、評価は分かりません。他人の意見に左右されなくてもいいと思います。あなたの独自の打ちやすい、やり易いカタチの「布石」を展開してください。
 

さて、こういう世の中です。コロナでだんだん不景気になって、就職も厳しい状況になっていくのかもしれません。不穏な世の中で明るい未来が見えなくて、どうしても苦しくてツライとき、「逃げてもいいんだ」と、いやむしろ「にげるのは恥ではない、戦略的撤退だ!その判断は正しい!」そう言ってくれる存在が必要です。私は、自分に厳しく他人に甘い性格です。苦しんでいるかもしれないみんなにそう言ってあげたい。しかし、直接そういうことを言えるのは学生相談室を、あるいは私の部屋を訪ねてきた人たちだけです。まだまだ、私自身の力不足を痛感しています。また、「逃げればいいよ!なんて簡単に言うけど、逃げてその後どうするの?」と聞かれるかもしれません。

それでも、私は囲碁の対局を横目で口出しするように、あえて「無責任に」、こう言いたい。
 

「そんなことはその追い込まれている場所から逃げて、安全を確保し、その後で考えればいい。いまは冷静になれてないだけかもしれない。まずは逃げてもいい。生きのびることが大切だ。恥ずかしくない、戦略的撤退だ。そのうち戦況も変わるかもしれない。」
 

と。

まずは自分のためにその場から逃げてみて、その後、盤面を眺めて、戦略から立て直せばいい。その局面を、一番うまくいかせる一手を考えよう。あきらめなければ、起死回生の一手や、のちに妙手になるかもしれない、「シノいで」「サバいて」「捨てて」という一手もあり得るのかもしれない。ただ、その一手が、簡単には見えないかもしれない。でも、簡単じゃないから囲碁は(人生は)面白いんだから。
 

最後にブログを書く機会を2月に私に回すという、素敵な計らいをしてくれた児玉学生相談室長に、この場を借りて感謝の意を伝えたいと思います。ありがとうございました。

そして、卒業まで見届けられなかった在校生のみなさん、世界は広いようで狭いです。地球の裏で再会できるかもしれません。

そう、いつか、どこかで、また会いましょう。
 

See you again!

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